2010年〜2023年の13年にわたって運営してきた「ぴたらファーム」では、仲間たちと共に自給自足的な暮らしを実践し、大地に繋がり循環する暮らしの素晴らしさを伝える活動を行ってきました。 そして人との繋がりをより大切にした場づくりに取り組みたいという思いから、エコビレッジ「めぐるコミュニティぴたら村」を立ち上げに至りました。
どうしたら人として幸せに、平和に、豊かに生きられるのか。その問いに対する壮大な実験だと思っています。

村では運営に関わる他、「暮らし畑」という屋号をもち、有機野菜の宅配、合鴨農法による稲作、講座付き貸し菜園、シェアハウス運営、パーマカルチャー建築や音楽イベントの開催などの活動を行っています。

僕の自給自足的な農的コミュニティでの暮らしは、ぴたらファームを始める前の時代から合わせて17年になります。農の暮らしを続けてきた中で、僕が伝えたい思いをまとめました。

僕が伝えたい10の想い

1)土の上に立とう
2)土の下に住む無数の見えないものたちの存在を意識しよう
3)自然とともに循環する、持続可能な暮らしをデザインしよう
4)手作りを楽しもう
5)未来を意識して今を生きよう
6)地球のため、社会のため、自己表現のために働こう
7)ローカルからはじめよう
8)ありのままの自分を肯定しよう
9)多様な世界を受け止めよう
10)対話をしよう

1)土の上に立とう

都市生活者の多くが全く土に触れることのない生活をおくっています。アスファルトの道を通勤し、コンクリートに囲われたオフィスで1日コンピューターの画面と向かい合う。土がなくとも人は生きられるように錯覚してしまっている人が多いのではないでしょうか。
人も大地に生かされているということ、自然の循環の中で生かされているということを得心していること(頭で理解するというよりは、身体で納得しているような状態)が人が生き物としての倫理を失わなために、何よりも大切なことだと思っています。
土の上に立とう(できれば裸足で)!土の上に寝転ぼう!
土に触れる機会が増えるだけで、驚くほど身体が元気になっていくのを実感できます!

2)土の下に住む無数の見えないものたちの存在を意識しよう

土の上に立ったなら、その下の世界に思いを馳せてみよう。
地下に住む微生物のバイオマス量は地上の生物のそれを上回るボリュームと言われます。
私たちの目に見える陸上の世界よりも、地下にははるかに大きな世界が広がっています。
しかしながら現代の人の営みによって、その見えない世界が大きく脅かされています。それが温暖化や異常気象という形で現れているのです。
化学肥料や農薬を使い、トラクターによる頻繁な耕運を行う現代農業が、温暖化や異常な気候変動など環境問題の大きな要因になっていることは今や周知の事実です。
化学窒素の生成には大きなエネルギーがかかるだけでなく、流出した余剰窒素は汚染に繋がります。農薬や土壌消毒は人にとって悪いとされる菌や虫だけでなく無差別に微生物たちを殺してしまいます。
微生物は植物と共生し、植物が光合成で得た炭水化物をもらう代わりに窒素や多くのミネラルを植物の吸える形にして渡しています。また植物を病気から守ってもいるのです。
土壌の団粒構造を作っているのもまた微生物です。その団粒構造があるおかげで大地には多くの水が蓄えられます。
微生物の身体に蓄えられていた炭素、土壌に蓄えられていた水が現代農業によって大量に大気へ放出されることによって温暖化や異常気象がもたらされています。
年々激しくなる気候に、本当に地球は壊れかけているんだなと実感します。
私たちは微生物たちと良い関係を保つような農業に取り組んでいく必要があります。当然ながら消費者の意識変革が必要です。

3)自然とともに循環する、持続可能な暮らしをデザインしよう

ぴたら村ではパーマカルチャーを1つの活動のキーワードとしています。
パーマカルチャーとはパーマネントカルチャー、アグリカルチャーの略で、持続可能な循環する農業や暮らしをデザインしていくこと。パーマカルチャーの倫理は、Care of Earth 、Care of People、For Share です。人も含めた自然が持続可能であるあり方です。
それは昔に戻らなくてはならないわけではなく、昔の知恵をありがたく引き継ぐと共に、そこに新しい知識や技術を上乗せして、今生きる私たちが心地よく感じられる暮らしです。
身の回りにあるものを生かして工夫する暮らし、そしてそれが巡っていく暮らしは楽しいものです。

4)手作りを楽しもう

自分の手で作ったものには自然と愛着が湧き、思い入れのあるものになります。
その1つ1つにストーリーが生まれ、長く大切に使いたいという気持ちになります。
手作りのものに囲まれる暮らしは心が満たされ幸せな気持ちになります。
いいことばかりですが、手間は掛かります。でも農的暮らしへ移行するために、実はこの点で大きな意識変換が必要になります。それは稼いで物を購入するという意識から、自分の手で作り出していこうという意識です。言い換えると、大きな会計から小さな会計へダウンシフトする意識になります。
都市とは違い、地代や生活費が抑えられます。農的暮らしでは都市での暮らしから大きな減収になりますが、小さな会計で生きていけるので、その分ものを作る楽しみに変えていけるのです。

5)未来を意識して今を生きよう

現代に生きる人は大地との繋がりだけでなく、実は過去と未来をつなぐ時間軸においても繋がりが途絶えてしまいました。かつて多くの人が一次産業や2次産業で生きていた時代、お父さん、お爺さん、そのまたお爺さんから延々と引き継いできた仕事を譲り受け、そして自分は息子、孫へとバトンを渡し、さらにその子孫へと繋がっていくその道筋を想像
できました。
時間軸の繋がりを失い、孤立した現代人は、ゴミをすてたり、自然を壊すことを躊躇わなくなりました。先人を敬い、未来のために木を植えるといった誰もが普通に持っていた精神性を失っています。
持続可能な暮らしを実践するのなら、ネイティブアメリカンのように7世代先を意識して今を生きる精神を取り戻すことが大切です。ずっとずっと未来へ続くコミュニティを作るつもりで、日々を暮らし、村づくりに取り組んでいこう。

6)地球のため、社会のため、自己表現のために働こう

お金を稼ぐことが働く目的の第一義になってしまう資本主義経済に違和感を感じます。
競争が促進され、各個人は利己的に振る舞うようになります。倫理が疎かにされ、組織においては個人の理念も時に蔑ろにされてしまいます。正しいと思うことをぐっと飲み込んで、会社の利益のためだけに尽くし続けると、心を壊します。社会への諦めが生まれてしまいます。
お金はあくまで交換ツールでしかありません。働く目的を、地球のため、広い社会のため、心の充足のため、自己表現のためにするには一体どうしたら良いのか。どうしたら倫理に則った社会をつくれるのか。
大切な仲間たちの間で主な循環がめぐる小さなコミュニティに、その理想を実現する十分な可能性があります。

7)ローカルからはじめよう

大企業はグローバルに視点が向きます。政府もそれに引っ張られ、やはりグローバルな世界へ導きます。そのために、土に根ざす人々の思いがおざなりになりがちです。
暮らしの細部に目を向けられるのはやはり実際にそこで生きている人たちなんだと思います。ネット時代で多くの人と繋がりやすくなった世界ではありますが、人が無理なく丁寧に関われる世界って実は小さいものです。全てが見通せるサイズ感がいい。エネルギーがロスなく循環するのがいい。小さなコミュニティから正しく世界を作っていこう。草の根の活動を外へ広げていこう。

8)ありのままの自分を肯定しよう

自然と繋がる暮らしの場では、人が本来の自分を取り戻したり、生き方を見つめ直すきっかけを持ちやすくなります。日本は特に同調圧力の強く、出る釘は打たれる社会なので、多くの人が目立たないようにとか、気持ちを隠して周りに合わせるように努める習慣があるように思います。でもみんなが飾らずありのままの自分を肯定して生きられることが大切です。みんなが自然体で、それが認められる場こそ、心理的にも安心安全になります。

9)多様な世界を受け止めよう

どうしたら世界は平和になるんだろう。どうしたら他者と心地よく繋がれるのだろう。
平和になるためには、こだわりを押し付けず、多様な人のあり方を大らかに認め合うことだと思います。自然がそうであるように、コミュニティは世代も国籍も趣味特技も多様な人の集まりでいい。多様であることが世界を豊かにしていくと思います。
世代の違いや国籍の違いはコミュニケーションの妨げにはなりません。
農の暮らしに生まれる会話には、世代間ギャップがないのです。純粋に年を重ね経験のある方には敬う気持ちが生まれます。
また多様な人が集まることで、助け合いがしやすくなります。
例えば、子育ては人生経験が浅く、生活の糧を得るのに忙しい若い親だけでできるものではありません。一昔前はおじいさんやおばあさん、そして地域のたくさんの人たちに育てられたのです。人はそうやって育つものだと思います。
さらには多様な人が集まることで、それを分かち合うことで、一人一人の暮らしは豊かになっていきます。どんな人もそれぞれが自分らしく表現することで魅力いっぱいの場になります。お互いを認めあうことで、助け合いの生まれる場になります。
自然と同じように人と人の関係性の中にも循環が生まれていきます。

10)対話をしよう

複数の人が共に生きるコミュニティの中で一番難しいのがまさしく対話です。
核家族、プライバシー重視の狭い世界で育った世代が多いの中、共に生きることを求めながらもやはり難しいと引け腰になってしまう人もいます。
でも上手に対話できれば、きっと生きやすい世界が広がるはずなのです。
共に対話を学んでいこう。相互理解を深めていこう。